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商標事例に学ぶ⑦ |街のスナックでも「シャネル」はダメ? ブランドを守るということ
徳山英浩
この記事は、会社名、店名、商品名、サービス名などをこれから決める中小企業・個人事業主の方、自社ブランドを育てている方に向けて書いています。
今回取り上げるのは、1998年に最高裁で判断された、いわゆる「スナックシャネル事件」です。
古い事件ではありますが、「有名ブランドとは違う業種なら、その名前を使っても大丈夫なのか」「自社ブランドを育てた後、無関係な名称の使用にどう向き合うべきか」を考えるうえで、今でも参考になる事例です。
「シャネル」と聞けば、多くの方が有名なファッションブランドを思い浮かべるのではないでしょうか。
では、高級ブランドとはまったく違う、街の小さなスナックが「シャネル」という名前を使ったら、どうなるのでしょうか。
実際に、このような店名をめぐって最高裁まで争われた事件があります。
なお、この事件で問題となったのは、商標権侵害ではなく、不正競争防止法でした。
今回の事件に関係する不正競争防止法のルールは、簡単にいえば、広く知られた他人の会社名、店名、商品名などと同一類似する表示を使用し、他人の商品や営業と混同を生じさせる行為を規制するものです。
商標法は、登録を受けた商標を中心に守る制度です。一方、不正競争防止法は、登録商標の保護とは別に、広く知られたブランドの信用を守る役割も担っています。
「それなら、商標の話ではないのではないか」と思われるかもしれません。しかし、商標出願を検討する際にも、「同じ又は似た登録商標があるか」だけではなく、広く知られた他社ブランドとの関係を考える必要があります。
今回は、不正競争防止法が問題となった事例ですが、店名や商品名を決める際、そして自社のブランドを守る際に重要な教訓を含むため、「商標事例に学ぶ」で取り上げます。
松戸市の「スナックシャネル」
千葉県松戸市で営業していたスナックは、「スナックシャネル」などの表示を使用していました。
店舗は、酒類や軽食を提供する一般的なスナックです。シャネルグループが扱う化粧品、香水、ファッション商品などとは、業種も、価格帯も、店舗の規模も異なります。
「本物のシャネルが松戸市でスナックを経営していると思う人はいないのではないか」
そう感じる方もいるでしょう。
実際、この点は裁判でも問題となりました。東京高裁は、両者の営業内容が大きく異なることなどから、消費者が両者を混同するおそれはないとして、シャネル側の請求を認めませんでした。
しかし最高裁は1998年、この判断を覆しました。最高裁は、「シャネル」という表示の周知性が極めて高いこと、ファッション関連企業では事業の多角化が進んでいることなどを踏まえ、スナックとシャネルグループの間に、営業上又は系列上の関係があると消費者が誤信するおそれがあると判断しました。
「混同」は商品の取り違えだけではない
この事件で重要なのは、「シャネルの商品を扱っているスナックだ」と思われるかどうかだけではありません。
例えば、消費者が次のように受け取る可能性があります。
シャネルと提携している店ではないか
シャネルグループの関係店ではないか
不正競争防止法では、このように、企業間に親会社・子会社・系列・提携関係などがあると誤信させるおそれも、「混同」として問題になることがあります。これを「広義の混同」といいます。最高裁は、スナックシャネル事件で、この広義の混同も保護の対象になることを明確にしました。
つまり、「業種が違うから大丈夫」「誰も本物の店だとは思わないから大丈夫」とは、必ずしもいえません。

なぜブランドは守り続けるのか
「小さなスナック一軒くらい、見過ごしてもよいのではないか」と思う方もいるかもしれません。
しかし、「シャネル」という名前が持つ魅力や、顧客を引きつける力は、一朝一夕に生まれたものではありません。
商品開発、品質管理、広告宣伝、店舗づくり、長年にわたる事業活動によって、「シャネル」というブランドの信用やイメージは築かれてきました。
関係のない事業者がその名前を使えば、消費者は、その事業者がシャネルと提携している、系列関係にある、あるいは名称の使用を許可されているのではないかと受け取るかもしれません。
著名ブランドを守る企業が、無関係な名称の使用に対応する背景には、このような誤解を防ぎ、長年築いてきたブランドの信用やイメージを維持するという考え方があります。
ブランドは、商標登録をして終わりではありません。必要に応じて、無関係な使用に対応し続けることも、ブランドを守るための重要な仕事です。
自社の事業に当てはめると
新しい会社名、店名、商品名、サービス名を考えるとき、「同じ名前が商標登録されていないか」を調べることは重要です。
ただし、それだけでは十分とはいえません。
有名ブランドと同じ又は似た名称を使う場合には、登録商標との関係だけでなく、不正競争防止法上の問題が生じることもあります。
次の3つを一度確認してみてください。
使いたい名称は、広く知られた他社ブランドを連想させないか
自社の業種が違っていても、提携先、系列店、許諾を受けた事業者などと受け取られるおそれはないか
名称だけで判断せず、ロゴやパッケージ、店舗表示などを含め、全体として有名ブランドとの関係を誤解させるような見せ方になっていないか
一方で、自社のブランドを育てる側にとっても、この事件は参考になります。
自社ブランドと同じ又は似た名称が、無関係な事業者に使われているのを見つけたとき、放置すべきか、事実を確認すべきか、使用の中止を求めるべきか。ブランドが大きくなるほど、こうした対応方針を考える必要が出てきます。
【初回相談は60分まで無料です】
会社名、店名、商品名、サービス名、ロゴについて、「商標登録を検討すべきか」「すでに似た名称が使われていないか」「他社ブランドとの関係が気になる」とお考えの方は、お気軽にIPプラウド国際特許事務所までご相談ください。
事業内容を伺ったうえで、商標出願を検討する前に確認しておきたい点や、ブランド名を決める際に注意したい点をご説明します。