「阪神優勝」から考える、商標の先願主義
2026/8/24
「阪神優勝」から考える、商標の先願主義
今では強いチームという印象もある阪神タイガースですが、長くリーグ優勝から遠ざかっていた時代がありました。
1985年の優勝以降、阪神はリーグ優勝を果たせない年が続きました。2003年、星野仙一監督の下、阪神タイガースは18年ぶりにリーグ優勝を決めます。長年その瞬間を待っていたファンにとって、まさに待望の優勝でした。
関西の街は大きな盛り上がりを見せ、「阪神優勝セール」や優勝記念グッズも数多く企画されました。
ところが当時、「阪神優勝」という言葉は、阪神球団とは関係のない第三者によって、すでに商標登録されていました。
「阪神タイガースが優勝したのだから、『阪神優勝』も阪神球団が自由に使えるのではないか」
そう感じる方が多いのではないでしょうか。この出来事は、日本の商標制度の基本である「先願主義」を考えるうえで、非常に分かりやすい事例です。
「阪神優勝」は誰の商標だったのか
「阪神優勝」は、2001年に阪神球団とは関係のない第三者によって出願され、2002年に登録されました。指定商品には、被服、履物、玩具、運動用具などが含まれていました。
優勝記念のTシャツや応援グッズを企画する場面では、「阪神優勝」という表示を商品に使うことが、先に登録された商標権との関係で問題になり得ます。
阪神球団側も「阪神優勝」の商標出願を行いましたが、前述した第三者の先行登録があったため、障害となりました。球団側は、その登録の無効を求める審判を請求します。
商標は先に出願した人が有利になる
日本の商標制度では、原則として、同じ又は似た商標を同じ又は似た商品・サービスに使用する場合、先に出願して登録を受けた人が権利を持ちます。これを「先願主義」といいます。
もっとも、商標登録を受けた後であっても、その登録に無効理由がある場合には、無効審判によって登録が無効とされることがあります。
阪神球団は、「阪神優勝」の商標登録について無効審判を請求しました。特許庁は、「阪神」が阪神タイガースの著名な略称として認識されていること、「阪神優勝」を被服などに使用すると、阪神タイガース又はその関係者の商品であるかのように受け取られるおそれがあることを理由として、商標登録を無効と判断しました。
商標登録を無効にするには、特許庁に無効審判を請求し、無効理由を具体的に主張した上で、必要な資料を提出する必要があります。先に商標調査を行い、必要な名称を出願する場合と比べて、無効理由の検討、証拠の収集、主張書面の作成などが必要になる分、時間や費用の負担が大きくなることがあります。
商標は会社名だけの話ではない
商標というと、会社名、店名、商品名をイメージする方が多いかもしれません。
しかし、事業で使う名称には、ほかにも大切なものがあります。
新商品や新サービスの名称
商品シリーズの名称
期間限定の企画名やキャンペーン名
展示会、セミナー、イベントの名称
キャッチコピーやプロジェクト名
名称が決まると、Webサイト、チラシ、パッケージ、SNS、取引先向け資料などの制作が始まります。後から名称を変更することになれば、費用だけでなく、顧客に覚えてもらった名前や事業上の信用にも影響します。
この事例から学べること
「阪神優勝」の事例は、阪神タイガースが自社ブランドを守っていなかったという単純な話ではありません。
有名なブランドを持っていても、新しい企画名や関連する名称まで自動的に守られるわけではないことを示しています。
多くの中小企業では、商品やサービスの内容には時間をかけても、その名称については最後に決めることが少なくありません。しかし、名前も重要な経営資産です。
新商品、新サービス、キャンペーン、イベントなどを始める際には、次の点を一度確認しておくことで、後々のトラブルや想定外のコストを避けられる場合があります。
既に似た商標が登録されていないか
将来も使い続ける名称か
自社で登録を検討すべき名称か
名前を決める前の少しの確認が、事業の選択肢を広げることにつながるかもしれません。
※本記事は公開情報を基に、商標実務上の一般的な論点を解説するものです。個別の侵害の成否を判断するものではありません。