意匠
スタートアップ
意匠事例に学ぶ⑤ |くら寿司~意匠を経営に活かす企業から学ぶ~
徳山英浩
この記事は、新商品や新サービスを開発している事業者の方に向けて書いています。
自社らしさを、競争力に変える知財戦略
飲食店や小売店、サービス業では、商品やサービスの内容だけで選ばれるとは限りません。店内に入ったときの印象、利用時の楽しさ、安心して使える仕組み、何度も思い出したくなる名前や演出。こうした一つひとつの体験が、「またこの店に来たい」という気持ちにつながります。
特に、新しい店舗やショールームの開設、既存店のリニューアル、複数店舗への展開を考えている事業者にとっては、「自社らしさ」をどのように形にし、守るかは大切な経営課題です。
今回取り上げるくら寿司は、特許、意匠、商標を組み合わせながら、独自の食体験を事業の競争力につなげている企業です。意匠を単なる「デザインの権利」としてではなく、経営に役立つ知的財産として活用するヒントが詰まっています。
くら寿司は何を守っているのか
くら寿司の強みは、お寿司そのものだけではありません。回転レーンで提供する仕組み、衛生面への配慮、店内で過ごす時間の楽しさ、「くら寿司らしい」と感じさせる空間やブランドイメージまで、顧客体験全体が同社の価値をつくっています。
代表的な例が、抗菌寿司カバー「鮮度くん」です。「鮮度くん」は、特許だけでなく商標でも保護され、回転寿司を安心して楽しめるというくら寿司の提供価値を支える中核的な知財として位置づけられています。
また、万博仕様の「鮮度くん」では、カバー同士を連結する機構について特許を、連結部分の形状について意匠登録第1782063号として登録されています。同じ商品・サービスの中でも、技術的な工夫は特許で、見た目の工夫は意匠で、名称は商標で守るという考え方です。
つまり、知財を一つだけ取得すればよいのではなく、自社の工夫を見極め、それぞれに適した制度を組み合わせることが重要です。


店舗の世界観も守る
くら寿司は、店舗空間についても意匠を活用しています。
くら寿司浅草ROX店の内装は、意匠登録第1671153号「回転寿司店の内装」として登録されています。支柱と屋根からなるやぐらの下に、机、椅子、パーテーション、回転寿司搬送装置を配置した店舗空間が、内装全体として意匠登録の対象となりました。
ここで重要なのは、机や椅子などを一つひとつ個別に保護しているわけではない点です。各要素の組合せや配置によって生まれる、店舗全体の空間の印象や世界観が、内装意匠として評価の対象となり得ます。
浅草ROX店は、内装意匠登録に加え、国際的な建築デザイン賞や日本サインデザイン賞でも評価されています。空間デザインは単なる装飾ではなく、来店者の記憶に残り、ブランドを伝える事業資産になり得ることが分かります。


意匠を経営に活かす視点
特許庁のインタビューによると、くら寿司では経営会議で新しいアイデアが出た際に、「特許を取れるか」「商標を押さえるべきか」といった検討が行われ、知財担当者も会議に参加しています。知財を、完成した商品や店舗に後から付け加えるものではなく、企画・開発・経営の初期段階から考えるものとして位置づけている点が特徴です。
この考え方は、飲食店や小売店に限りません。
独自の外観をもつ店舗や施設
ブランドの世界観を表現した内装やショールーム
顧客に印象を残す什器、パッケージ、商品デザイン
利用体験を支える独自の仕組みやサービス名
将来的に多店舗展開・フランチャイズ展開を予定する事業
こうした要素の中には、意匠、特許、商標などで保護を検討できるものがあります。
「どの制度を使うか」から考えるよりも、まずは「お客様が自社を選ぶ理由は何か」「他社にまねされると困る工夫は何か」を整理することが大切です。その上で、形や見た目であれば意匠、技術的な仕組みであれば特許、名称やロゴであれば商標というように、適切な保護方法を選んでいきます。
知財は、商品や店舗が完成した後に考えるものではなく、事業を構想する段階から考えることで、その効果を発揮します。
IPプラウドからの提言
くら寿司の事例が示すのは、知財は「一つの権利を守るため」のものではなく、事業の強みを守り育てるためのものだということです。独自性を伝え、ブランドへの信頼を育て、競合との差別化につなげる――意匠をはじめとする知財は、経営を支える実践的な道具になり得ます。
知的財産権を取得する意義は、模倣を防ぐことだけではありません。特許・意匠・商標を適切に取得し、活用していることは、自社の技術、デザイン、ブランドを大切に育てているという姿勢を社外へ伝えることにもつながります。
例えば、商品や店舗、パッケージなどに「特許取得」「意匠登録」「商標登録」といった表示をすることは、独自の工夫があることを顧客や取引先に分かりやすく伝える機会にもなります。権利を取得すること自体が、信頼性の向上やブランドの訴求、宣伝広告の一部として機能する場合もあります。
また、自社の権利を整備する過程では、他社の権利を尊重し、侵害を避けるための調査や確認も重要です。知財を適切に扱うことは、法令や他社の権利への配慮を含め、健全な事業運営を支える基盤の一つといえます。
意匠は、見た目が美しいものだけを守るための制度ではありません。商品、店舗、空間、サービス体験に込めた「自社らしさ」を、事業の強みに変えていくための選択肢です。
建築や内装は、完成後に変更しようとすると、多くの費用と時間を要します。商品デザインや店舗デザインについても、公開後では意匠登録が難しくなります。
新しい店舗、ショールーム、商品、パッケージなどを企画される際には、完成・公開前の段階で、一度、意匠による保護の可能性を考えてみてください。すでに公開している場合でも、公開時期や状況によっては対応できることがありますので、早めにご相談ください。
【初回相談は無料です】
自社の商品・店舗・空間・サービスにある「守るべき工夫」を一緒に整理し、事業に役立つ知財活用をご提案します。