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商標事例に学ぶ⑥ |PORTERバッグ無断販売事件から学ぶ、商標権が増やす対応の選択肢
徳山英浩
この記事は、自社ブランドの商品を製造委託している中小企業・個人事業主の方、OEM・ODMによる商品開発を検討している方、商品名やロゴの商標登録を考えている方に向けて書いています。
人気バッグブランド「PORTER」を展開するかばんメーカー「吉田」は、自社ブランドの商品について、外部の製造会社へ製造を委託していました。
2026年9月、この製造委託先の元取締役が、納品予定だった「PORTER」ロゴ付きのバッグや財布を無断で買い取り専門店へ売却したとして、商標法違反と業務上横領の疑いで書類送検されたと報じられました。
報道によれば、送検容疑は、2025年5月頃から2026年1月頃にかけて、バッグや財布など102個を京都府内の買い取り専門店へ売却したというものです。
製造委託先は、商品を製造するために、ブランド名やロゴを使用することを認められていたと考えられます。しかし、商品を自ら販売する権限まで与えられていたわけではありません。
この事件は、製造委託された商品を無断で売却したという点で、業務上横領の問題として理解できます。
ただ、本件では業務上横領だけでなく、商標法違反も問題とされています。
「正規の工場で製造された商品なのに、なぜ商標法違反が問題になるのか。」
「商標権を持っていると、どのような対応ができるのか。」
今回は、PORTERバッグの無断販売事件を手がかりに、商標権があることでどのような対応の選択肢が生まれるのかを考えてみます。
なお、本件は書類送検段階です。以下では、報道された事実を前提に、一般的な商標実務の観点から解説します。
正規品でも商標法の問題になるのか
商標権侵害というと、偽物のバッグや、ブランドロゴを無断で付けた商品を思い浮かべる方が多いかもしれません。
本件で報道されている商品は、PORTER商品の製造を受託していた会社で製造されたものです。見た目だけを考えれば、偽物とは異なるように感じます。
しかし、報道によれば、製造委託先は商品の製造を受託していたにとどまり、納品前の商品を無断で売却したとされています。商標権者が管理する正規の販売経路を通さず、「PORTER」の商標が付いた商品を市場へ流通したとされる点が、商標法上も問題視されたものと考えられます。
ここで重要なのは、「正規品か偽物か」だけではありません。
誰が、どのような管理の下で、どの経路を通じてブランド商品を市場へ出したのかも、ブランドの信用に関わる重要な問題です。
ブランド側は、製造数、品質検査、販売時期、販売先、アフターサービスなどを管理しながら、商品とブランドの信用を維持しています。製造委託先から商品が無断で流通すれば、その管理が及ばない商品が市場に出ることになります。
業務上横領だけではない理由
業務上横領は、業務として預かり、又は管理していた他人の物を、権限なく自分のもののように処分する行為が問題となります。
本件では、製造を委託された商品を無断で売却した点について、業務上横領が問題になったとみられます。
一方、商標法違反は、「PORTER」というブランドを示す商標が付いた商品を、商標権者の意思に反して販売・譲渡した点を、ブランド保護の観点から問題にするものです。
商標は、単なるロゴや名称ではありません。消費者に対して、「誰が責任を持って市場に出した商品なのか」を示す目印でもあります。
製造委託先による無断販売のように、契約違反や横領などが問題になり得る場面でも、商標権があれば、ブランドの信用や流通管理を守る観点から、別の対応を検討できることがあります。

商標権を持っていると対応の選択肢が増える
商標権がない場合でも、契約違反、所有権、業務上横領、不法行為などの観点から、返還請求、損害賠償、刑事対応などを検討することはできます。
一方で、商標権を持っていれば、これらに加えて商標権侵害に基づく対応を検討できる可能性があります。
商標権がない場合 | 商標権がある場合 |
契約違反に基づく請求 | 左記に加え、商標権侵害に基づく差止請求を検討できる |
所有権、不法行為等に基づく返還・損害賠償の検討 | 商標が付された侵害品の廃棄等を求めることを検討できる |
業務上横領等についての刑事対応の相談 | 商標法違反としての刑事対応も相談できる可能性がある |
実際に生じた損害を中心とする立証 | 商標法38条の損害額推定規定の利用を検討できる可能性がある |
商標権侵害が認められる場合には、侵害行為の差止めや、商標が付された商品の廃棄などを求めることを検討できます。
損害賠償については、商標法に、侵害者が得た利益額などを権利者の損害額と推定する規定があります。契約違反や横領に基づく請求だけでは把握・立証が難しい損害についても、商標法上の損害額推定規定を利用できる可能性があります。
もちろん、商標権があれば必ず問題を解決できるわけではありません。損害賠償額が必ず大きくなるわけでもありません。
実際に取り得る手段や損害額は、製造委託契約の内容、商品の数量、販売価格、販売による利益、証拠の内容などによって変わります。
それでも、商標権を持っていることで、財産管理の問題だけではなく、ブランドの信用・流通管理という観点からも対応を検討できるようになります。
製造委託でも商標管理は重要
中小企業や個人事業主でも、商品の製造を外部の工場へ委託する場面は少なくありません。
その際、商標登録だけでブランド保護が完結するわけではありません。製造委託契約と日々の運用も重要です。
特に、次の点は確認しておく必要があります。
商標・ロゴを使用できる目的と範囲を明確にしているか
製造数、納品数、在庫数を照合できる仕組みがあるか
余剰品、不良品、試作品、サンプル品の保管・廃棄方法を定めているか
無断販売や再委託を禁止しているか
契約終了時の返却、廃棄、在庫確認の方法を決めているか
ECサイト、フリマアプリ、買い取り店などで不自然な流通を見つけた場合の連絡先と初動対応を準備しているか
商標権を持っていることと、その商標が付いた商品を適切に管理することは、切り離せません。
自社の事業に当てはめると
PORTERの事件から学べることは、商標権が偽物や模倣品への対策だけに使われるものではない、ということです。
商標権を持つことは、問題を起こさせないためだけのものではありません。万が一問題が生じたときに、自社のブランドを守るための対応の選択肢を増やすことにつながります。
商品を外部の工場へ製造委託している企業、これからOEM・ODMを活用する企業にとっては、商標登録だけでなく、契約や日常の管理も重要です。
次の3つを一度確認してみてください。
自社の商品名やロゴについて、必要な範囲で商標権を確保できているか
製造委託契約で、製造数、納品、余剰品、不良品、試作品、廃棄品の扱いを定めているか
無断販売や不自然な流通を見つけた場合、誰に相談し、どのように証拠を残して対応するかを決めているか
商標は、商品名やロゴを登録するだけの制度ではありません。ブランドが付いた商品を、誰が製造し、どの経路で市場に出すのかを考えるための基盤にもなります。
【初回相談は60分まで無料です】
商品名、サービス名、ロゴ、ブランドについて、「商標登録を検討すべきか」「似た商標がすでに登録されていないか」「自社のブランドをどのように守ればよいか」とお考えの方は、お気軽にIPプラウド国際特許事務所までご相談ください。
事業内容を伺ったうえで、商標登録の必要性や、出願前に確認しておきたい点について、ご説明します。