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ゆっくり茶番劇から学ぶ、商標権と先願主義

2026/8/24

ゆっくり茶番劇から学ぶ、商標権と先願主義

2022年、「ゆっくり茶番劇」という言葉が商標登録されたことが、大きな話題になりました。

「ゆっくり茶番劇」は、いわゆる「ゆっくりキャラ」と合成音声を使って構成される会話劇風の動画を表す言葉として、動画投稿者の間で長く使われてきた表現です。

その言葉について、第三者が商標登録を受け、使用に関するライセンス契約や年間使用料に言及したことで、多くの投稿者に不安が広がりました。

「これまで使ってきた動画タイトルやタグは、もう使えなくなるのか」

「自分の動画を削除しなければならないのか」

こうした心配の声が広がった背景には、商標権に対する「登録されたら、その言葉はすべて使えなくなるのではないか」というイメージがあったと思います。

しかし、この事例は、商標権の範囲と、商標として登録できる言葉の限界を考えるうえで、重要な事例です。

「ゆっくり茶番劇」の商標登録

「ゆっくり茶番劇」は、第三者によって2021年9月に出願され、2022年2月に第41類の「インターネットを利用して行う映像の提供」などを指定役務として登録されました。

その後、商標権者は商標権を放棄し、放棄による抹消登録がされました。

ただし、放棄による抹消では、商標が登録されていた期間に商標権が存在したという事実まではなくなりません。登録されている間に、商標権侵害を理由とする請求を受けた人がいた場合など、放棄だけでは問題が残る可能性があります。


そこでドワンゴは、「ゆっくり茶番劇」はそもそも商標として登録されるべきではなかったことを明らかにするため、無効審判を請求しました。特許庁は2023年、この登録を無効と判断しました。無効審決が確定したことにより、商標権は法律上、初めから存在しなかったものとして扱われます。

商標登録されても、何でも独占できるわけではない

商標は、商品やサービスについて、「誰が提供しているのか」を示す目印です。

例えば、特定の会社だけが提供する商品名やサービス名であれば、その名称は商標として機能しやすいといえます。

一方で、多くの人が特定のジャンル、内容、品質、用途などを説明するために使う言葉まで、特定の一人が独占できるとは限りません。

特許庁は、「ゆっくり茶番劇」が、ゆっくりキャラと合成音声を用いた会話劇風の動画というジャンル又はカテゴリーを示す言葉として使用・認識されていたと判断しました。そのため、映像の提供などについて使用しても、誰が提供するサービスなのかを示すのではなく、動画の内容・ジャンルを示すにとどまるとして、商標法第3条第1項第3号(商品や役務の特徴を表示する商標が登録できない理由を規定)などに該当すると判断しています。

商標登録されても、後から無効になることがある

第1回の「阪神優勝」の事例でも、第三者による商標登録に対し、阪神球団は無効審判を請求しました。

「ゆっくり茶番劇」でも、第三者による商標登録がいったん成立しています。その後、無効審判により登録は無効とされましたが、そのためには、登録がなぜ無効であるかを検討し、多数の使用実態に関する資料を集め、手続を進める必要がありました。

この事例は、先に出願して商標登録を受けても、その登録が常に安定した権利になるわけではないことを示しています。一方で、登録が後から無効になる可能性があるからといって、「重要な名称は出願しなくてもよい」ということにはなりません。

「ゆっくり茶番劇」は、多くの投稿者がジャンル名として使ってきたという事情があり、無効と判断されました。しかし、商品名、サービス名、企画名などが自社のブランドとして使われている場合には、同じように無効にできるとは限りません。

第三者に先に登録されてしまうと、自社が使い続けるために交渉や無効審判などを検討する必要が生じます。事業上重要な名称ほど、使い始める前に商標調査を行い、必要に応じて出願しておくことが重要です。

この事例から学べること

「ゆっくり茶番劇」の事例は、商標権があれば、どのような言葉でも独占できるわけではないことを示しています。

ただし、いったん商標登録がされると、後から無効にするためには、無効理由の検討、使用実態を示す証拠の収集、審判手続への対応などが必要になります。最終的に無効となったとしても、その間に関係者の不安や混乱が生じることがあります。

中小企業やスタートアップが新しい名称を考える際にも、まず、その言葉が商品・サービスの内容や業界の一般的な用語ではなく、自社を他社と区別するブランドとして機能するかを考える必要があります。

そのうえで、将来も使い続けたい商品名、サービス名、企画名などについては、先行商標を確認し、必要に応じて早めに商標登録を検討することが大切です。

商標は、出願すれば必ず有効な権利になるものではありません。一方で、重要な名称を出願せずにいると、第三者の登録により、後から対応を迫られることがあります。

名称を決める段階で、登録できる名称か、他者の権利と抵触しないかを確認しておくことが、ブランドを守る第一歩になります。

※本記事は公開情報を基に、商標実務上の一般的な論点を解説するものです。個別の侵害の成否を判断するものではありません。