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なぜ今、政府は改めて知財・無形資産を重視するのか| 知的財産推進計画2026から見える「知財経営」の時代
徳山英浩
「知財は重要です。」
この言葉自体は、昔から言われてきました。
しかし近年、政府が発信するメッセージには、少し変化が見られます。
2026年に公表された「知的財産推進計画2026」を読むと、政府が重視しているのは、単に特許出願件数や登録件数を増やすことではありません。
むしろ強く打ち出されているのは、
知財や無形資産を、どのように企業の競争力や企業価値につなげるか
という視点です。
知財・無形資産の見える化や、知財を活用した資金調達、スタートアップ支援などが注目されているのも、その流れの一つといえます。
では、なぜ政府は今、知財・無形資産を従来以上に重視しているのでしょうか。
今回は、知的財産推進計画2026を手がかりに、その背景を考えてみます。
知財は特許だけではない
まず整理しておきたいのは、「知財=特許」ではないということです。
もちろん特許は重要です。
しかし、企業の競争力を支えているのは特許だけではありません。
例えば、企業には次のような強みがあります。
商品名や会社名、ロゴを守る商標
他社との差別化につながるデザインである意匠
長年蓄積してきたノウハウ
独自の製造技術や加工技術
顧客からの信頼やブランド力
これらも、企業にとって重要な資産です。
政府が近年使う「無形資産」という言葉には、特許権や商標権などの知的財産権だけでなく、ブランド、ノウハウ、技術力、顧客との関係など、企業が長年かけて築いてきた目に見えない強みも含まれます。
つまり政府は、知財を単に「権利として守るもの」としてではなく、企業の強みとして活かす経営資源として、従来以上に重視しています。
無形資産が企業価値を左右する時代
その背景には、企業価値の中身の変化があります。
かつて企業の価値は、工場、土地、建物、機械設備など、有形資産によって支えられている面が大きかったといえます。
しかし現在は、技術、ブランド、ノウハウ、デザインといった無形資産が、企業価値を大きく左右するようになっています。
知的財産推進計画2026では、日本市場(日経225)における時価総額に占める無形資産の割合が、2020年の32%から、2025年には52%へ上昇したことが示されています。
2025年には、無形資産の割合が有形資産の割合を上回りました。
日本でも、企業価値を考える上で、目に見えない資産の存在が無視できなくなっていることが分かります。

図表:時価総額に占める無形資産の割合
出典:Ocean Tomo Intangible Asset Market Value Studyを基に内閣府知的財産戦略推進事務局が作成
一方、米国市場(S&P500)では、2025年に無形資産が時価総額の92%を占めています。
日本でも無形資産の割合は大きく上昇していますが、米国と比べればなお差があります。政府が知財・無形資産を重視するのは、単に無形資産の比率を高めること自体が目的ではなく、それを競争力や収益力につなげる経営を広げる必要があるからだと考えられます。
なお、この数値は、特許や商標の価値だけを示すものではありません。
時価総額のうち、土地・建物・設備などの有形資産だけでは説明しにくい価値の割合を示すものです。そこには、技術、ブランド、ノウハウ、組織力、顧客からの信頼なども含まれます。
政府が見ているのは「出願件数の先」
知財の世界では、これまで特許出願件数や登録件数が、一つの分かりやすい指標として重視されてきました。
もちろん、必要な権利を取得することは今でも重要です。
しかし、権利を取得すること自体が目的になってしまうと、知財は経営と切り離されてしまいます。
政府が現在、より重視しているのは、その先です。
保有している知財が、実際の事業に活かされているか
技術の強みを、商品・サービスの差別化につなげられているか
ブランド価値を高め、価格競争を避けられているか
デザインを活かして、顧客から選ばれる理由をつくれているか
ノウハウを適切に管理し、企業の競争力として維持できているか
自社の強みを、取引先、金融機関、投資家などに説明できているか
知的財産推進計画2026でも、「知財・無形資産の活用」が重要なテーマとして繰り返し示されています。
出願して終わりではなく、
その知財を、どのように経営に活かすか
が問われる時代になりつつあります。
政府が注目している知財を活用した資金調達も、「特許があれば、それだけで融資を受けられる」という話ではありません。
技術、ブランド、ノウハウ、顧客との関係、事業計画などを含めて、自社が今後どのように価値を生み出し、収益を上げていくのかを説明できるようにする。そのために知財・無形資産を整理し、見える形にしていくことが重要になっています。

中小企業にも無関係ではない
こうした話を聞くと、
「上場企業や大企業の話ではないか」
と思われるかもしれません。
しかし、中小企業や中堅企業にも無関係ではありません。
むしろ中小企業ほど、自社が持つ無形資産を十分に認識できていないことがあります。
優れた技術を持っている。
顧客から高い評価を受けている。
独自の製造ノウハウがある。
長年培ってきたブランドがある。
それにもかかわらず、それらを「会社の価値」や「他社との差別化につながる強み」として、十分に整理できていないケースがあります。
特許や商標を取得していても、それらが経営戦略の中でどのような役割を果たしているのかまで整理できている企業は、決して多くありません。
だからこそ政府は、知財を法務部門だけの話ではなく、経営課題として位置付けようとしているのだと思います。
まずは自社の強みを整理してみる
中小企業が最初に取り組むべきことは、出願件数を増やすことではないかもしれません。
まずは、次のような点を整理してみることです。
なぜ顧客に選ばれているのか
他社との違いは何か
真似されると困るものは何か
その中には、次のようなものが含まれているかもしれません。
特許で守るべき技術
商標で守るべきブランド
意匠で守るべきデザイン
秘密として管理すべきノウハウ
知財経営の第一歩は、自社の強みを知ることから始まります。
人口減少時代に求められるのは、高い付加価値を生み出す力
日本では、人口減少が進んでいます。
労働力も市場規模も伸びにくくなる中で、これまでと同じやり方だけでは成長が難しくなります。
だからこそ重要になるのが、
技術
ブランド
デザイン
ノウハウ
といった無形資産です。
人が増えない時代には、「たくさん作る力」だけではなく、「高い価値を生み出す力」が求められます。
同じような商品やサービスであっても、技術、デザイン、ブランド、品質、信頼によって他社との差別化ができれば、価格だけで比較されにくくなります。
その源泉となるのが、知財であり、無形資産です。
政府が知財・無形資産を重視する背景には、人口減少や国際競争の中で、日本企業がより高い付加価値を生み出していく必要がある、という課題もあるのではないかと思います。
知財はコストではなく投資へ
特許、意匠、商標の取得には、費用も時間もかかります。
そのため、知財をコストとして捉える場面もあるでしょう。
しかし、出願件数を増やすことだけが知財活用ではありません。
どの技術を守るべきか
どの商品名や会社名をブランドとして育てるべきか
どのデザインを差別化に活かすべきか
どのノウハウを秘密として管理すべきか
こうした判断を事業戦略と結び付けることが重要です。
知的財産推進計画2026を読んでいて感じるのは、政府が知財を単なる手続や権利取得の対象ではなく、企業の将来の成長を支える経営資源として捉えていることです。
知財は単なるコストではありません。
将来の事業成長を支える投資になり得るものです。
おわりに
知財というと、どうしても特許出願や商標登録の手続に目が向きがちです。
しかし、知的財産推進計画2026が示しているのは、その先の世界です。
これからは、
「何件出願したか」
だけではなく、
「その知財や無形資産を、どのように経営に活かしているか」
が、より問われるようになるかもしれません。
自社の技術、ブランド、デザイン、ノウハウ。
それらを単なる権利や経験として扱うのではなく、企業価値を生み出す資産として捉える。
政府が今、知財・無形資産を従来以上に重視している理由も、そこにあるのだと思います。
特許や商標を取得すること自体が目的ではなく、自社の強みをどのように守り、どのように活かしていくか。その視点が、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。
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